「枕、お風呂にいれちゃうよ!!」

1987年 PHP No.469

 

 

 提言など私にはない。強いて言えば、私の猫に、「ティッシュペーパーを箱から次々に引っぱり出さないでくれ!!」か(今、彼はやっている)、「どうか、歯みがきのチュ-プの横腹を噛まないでほしい!!」というところか。それにしても今は何もかもがよくなった。私は概ね世界に満足している。

 だが待てよ、一つある。「全国の子どもよ、枕をお風呂につけないでほしい」である。

 これは自分の幼い頃のかすかな記憶に遡る。「三輪車、買ってくれなきゃ、僕の枕お風呂に入れちゃうよ!!」どうも母を困らせたらしい。実際、あの枕のそばがらを縁側の上にならべて、日に干していたのを憶えている。水につけられた枕はなんとも惨めなものである。買ってもらうと次は自転車、そして、台詞は同じ。母は困って多分、何回に一回かは買ってくれたのだろう。

 今、心理学者としてこれを「攻撃的依存性」と名づけたい。つまり、他人の愛情を攻撃的に請求し、受け入れられないと相手にだけ責任をなすりつける未熟な行動である。「私が悪いのは相手が悪いから、私が悪くなったのだ」という論法で、一見強そうに見えても、根は他人の愛情を当てにする「依存性」である。

 このいわば「泣き」に最近注目している。なぜなら、あまりにも世界の愛情を当てにする、円高日本の姿とだぶって見えるからである。